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【土・日曜日に書く】ワシントン支局長・佐々木類 「ルーピー」と書かれた首相(産経新聞)

 ≪忠ならんと欲すれば…≫

 平安時代末期の武将で公卿(くぎょう)だった平重盛が語ったと伝えられる有名なセリフを思いだした。

 いわく、「忠ならんと欲すれば孝ならず、孝ならんと欲すれば忠ならず」。父清盛への孝行と、武将として仕えた後白河法皇への忠誠を両立させる難しさを嘆いたものだ。清盛の右腕として平家全盛時代の立役者となった重盛だったが、晩年は清盛と後白河法皇の対立のはざまで進退きわまった。

 遠い昔、学校の授業で習ったこのエピソード。なぜ、今ごろになって思いだしたかというと、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設問題に関し、訪米した際の記者会見に臨む鳩山由紀夫首相の、宙を泳ぐうつろなまなざしが脳裏から離れないためだ。

 重盛ほどの政治家ですら解けなかったジレンマという難問。「地元の理解」と「米海兵隊の一体的な運用」の両方を同時に満たす方程式の解は、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部に移す現行案以外になかったのである。沖縄県民への「思い」は問題解決の何の補助線にもならず、かえって県民感情を傷つけた。

 「最低でも県外」といっていた鳩山首相。それが「7千本以上」(与党幹部)ともいわれるくい打ち桟橋方式を「現行案ではない」と言い張ったところで、辺野古に回帰する以上、国民や地元住民、オバマ大統領ら米政府関係者にまでウソをついていたといわれてもやむを得ないだろう。

 ≪“首脳通信簿”で最低点≫

 それ以上に日本人として残念なのは、日本の文化も歴史もどこまで詳しく知っているのか分からない米国の新聞記者から嘲(あざけ)りの対象とされたことだ。

 そう、あの「loopy(ルーピー)」という言葉である。

 悲しいかな、鳩山首相を語る際の枕詞(まくらことば)として定着した観がある。米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、アル・ケイマン氏が4月の核安全保障サミット後、各国首脳の外交成果に“通信簿”をつける形で書かれた風刺画調のコラムの中での表現だ。17面に署名と顔写真入りで掲載された、このコラムは鳩山首相を「最大の敗者」「不運で愚かな首相」と皮肉った。

 後日、ケイマン氏にルーピーの真意について聞いてみた。同じ記者同士、米政府高官のだれが言ったかを聞けるとは思っていない。ただ、ホワイトハウスを中心に、ワシントン政界の“奥の院”を知り尽くしたベテラン記者から、米政府内の微妙な空気のほか、記事がポスト紙の公式見解なのかを知りたかったからだ。

 メモ帳をたぐると、連絡をとったのは、最初に転電した翌日の4月16日だった。ケイマン氏は何やら移動中で忙しいということだったが、留守電に伝言を残しておくと、後になって「あくまで個人の見立てで書いたもので、ポスト紙の見方を代表したものではない」との回答をメールでくれた。「ワシントン・ポスト社としての主張はオピニオン(論説)欄に掲載される。私は取材記者であり、ポスト社を代表する立場にはない」と個人の見解を強調していた。

 ≪「冷めたピザ」よりひどい≫

 だが、日米関係筋は、「どんな形であれ、ポスト社の見解を踏み外したものが掲載されるわけがない」と語る。かつて、米紙ニューヨーク・タイムズが小渕恵三首相を「冷めたピザ」と揶揄(やゆ)したことがあった。首相周辺は「電子レンジでチンすればおいしい」などと切り返す余裕があった。

 これに対し、今回のルーピーは救いようのない罵詈(ばり)雑言で、「日本の首相にこんな辛辣(しんらつ)な言葉を使った記事は見たことがない」と、日米関係筋は悔しがる。それを国会答弁で認めた首相も首相である。

 肝心の真意だが、複数の英和辞書によれば、ルーピーには「頭のいかれた」「愚かな」という意味がある。米俗語だけに、日本語訳は英語を生業とする専門家をも悩ませた。ケイマン氏は続報で、島根大学の教授が日本のメディアがルーピーの意味について、「愚かな」と「いかれた」の2通りに解釈していると指摘し、真意はどちらなのだと問い合わせがあったことを紹介した。

 ケイマン氏の答えは、「組織の意思決定について十分な情報を得ているという意味での『輪の中に入っている』状態とは正反対の意味」であり、「現実から変に遊離した人」だと釈明した。具体的には、浮気発覚後の会見で、離婚されそうな妻に「会見の出来はどうだった?」と聞いた州知事をルーピーの例に挙げた。だとすると、かつて日本ではやった重度の「KY(空気が読めない)」にニュアンスが近いのかもしれない。

 重盛は出家して第一線から身を引いた。ルーピーか否かはこの際脇に置く。鳩山首相の対応を注視したい。(ささき るい)

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